東京と福島を行き来しながら暮らし、働く。二地域居住という選択

更新日:2023年02月27日

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コロナ禍でリモートワークが浸透した今、地方移住への関心が高まっています。その一方で「新しい土地に移住するのはハードルが高い」と感じる人が多いのも事実です。

しかし、地方と関わる方法は移住だけではありません。

副業をきっかけに福島と関わり始め、現在は東京と福島を行き来しながら暮らし働く「二地域居住」を実践している、木下亮さんにお話を伺いました。

プロフィール

木下亮さん

1987年京都府生まれ。大阪府内の大学に進学し、卒業後は「イオンモール株式会社」の社員として国内外のさまざまな土地で勤務した後、フリーランスへ転身。現在は主に中小企業向けに、事業計画書の作成からマーケティングまでを提案する「株式会社ダイゴビレッジ会社」を経営しながら、福島県須賀川市にある都市再生推進法人「株式会社テダソチマ」とともに、同市のまちづくり事業に携わっている。

福島県主催の地域交流ツアーが福島と関わるきっかけに

「もともとは、福島県ともゆかりもなかったんです。郡山で知人の結婚式があった時に訪ねた経験があったくらいでしたね」

そんな木下さんが福島と関わるきっかけとなったのは、2020年。本宮市で行われた福島県主催の地域交流ツアーに参加したことがきっかけでした。そこから福島とのつながりが増えていき、県内各地のまちづくり会社を巡るワーケーションツアーにも参加することに。それが、須賀川市にある都市再生推進法人「株式会社テダソチマ」との出会いにつながりました。

ワーケーションツアーに参加後、県が運営する福島県副業人材マッチングサイトで募集していたテダソチマの案件に応募。数ある会社の中からテダソチマを選んだきっかけについて、木下さんは「テダソチマは、たくさんのツアー参加企業の中で唯一、参加者である僕たちの名前を出して『ようこそ、須賀川へ!』と温かく迎えてくれたんです。それがすごく印象的でした」と話します。

それから木下さんはテダソチマとタッグを組み、須賀川市のまちづくりに関わるさまざまな事業を進めていくことに。おみやげ品の開発から新規事業の立ち上げまで、少しずつ須賀川での仕事が増えていきます。

「まちづくりに関わりたい」という想いから、二地域居住をスタート

当時、木下さんは東京在住のフリーランスで、さまざまな地域の企業と連携しながら仕事をしていました。木下さんとテダソチマを結びつけたのは、“副業”でしたが、木下さんは「東京の仕事が本業で、テダソチマの仕事が副業という区別はありませんでした。僕のなかでは、どちらも大切な仕事でした」と話します。

もともと、まちづくりに関わる仕事には関心があったのだそうです。
「イオンモールで働いていた時代に、中国での新規施設の立ち上げに携わったのですが、何もなかった土地に、ひとつ商業施設ができるだけでどんどん景色が変わるんです。新しいお店が出店したりマンションが建ったり、まさに『まち』が生まれていく。その姿に衝撃を受けました」

1つのアクションで何かが大きく変わる。その光景を目の当たりにしてからというもの、ずっとまちづくりに対する興味を持ち続けてきた木下さん。だからこそ自然とテダソチマ、須賀川との関わりも濃密になっていきました。「まちづくりに携わるのであれば、現地にもいないと理解が深まらない」との考えから、徐々に二地域居住のスタイルになっていったそうです。

福島での住まいは、空き家を活用

須賀川の自宅前。空き家を活用し、月の半分をここで暮らしている

現在は、ひと月のうち半分を東京、もう半分を須賀川の目安で過ごしながら働く木下さん。業務内容や量など状況に応じて、臨機応変に割合を変動させながら日々を過ごしています。1カ所に一週間程度~まとまって滞在し、東京-福島間の移動は高速バスを利用することがほとんど。これを月に3往復くらい繰り返すことが多いそうです。

二地域居住をする上で必ず考えなければならない「住居問題」については、地域の空き家を活用するところからスタートしました。というのも、テダソチマの運営会社は不動産業を営んでおり、住むところを探していた木下さんに自社で管理している空き家の話を持ちかけてくれたそうなのです。

空き家を借りることにした木下さんは、そこを拠点に新しい暮らしをつくると同時に、「使いたいと思う人がいれば使ってほしい」と、「人を呼ぶ施設」としても整えていきます。

現在住んでいる2軒目の家も、もとは空き家で、前の家主が残した家具なども含めてテダソチマの運営会社が買い取った上で借り受けているのだそう。とはいえ、現在の家にもずっと住み続けるつもりはなく、1軒目同様に「まちづくりに参画したくて二拠点生活をしているし、家賃も無料にして頂いているので、今の家も他の用途が見つかれば、僕はまたヤドカリみたいに引っ越すと思います。そんな生活も楽しく感じています。」と笑顔で語ってくれました。

リモートワークでストレスが軽減

テダソチマのコワーキングスペース。

二地域居住を始めてから、何か不都合はなかったのでしょうか。
「最初はZoomの使い方に慣れなくて、苦労しましたね(笑)。でも、それくらいです。バスや新幹線にWi-Fiがあるので、移動中も全く不便はなかったです。逆に二地域居住を始めてから、首都圏と地方都市の良いところを両方味わえて充実した生活を送れています」

木下さんは、会社員時代の中国での任期中を含め、出張には1,000km以上の長距離移動が必要になることも多く、2015年頃からオンライン会議やリモートワークを取り入れていたのだそう。日本に帰国後は、まだまだWi-Fi環境等が整っていなかっため、不便さを感じることも多かったそうですが、それもコロナによる生活様式の変化でリモートワークが一般化したことで、一気に解消されたのだと言います。

一方で、直接顔を合わせることも大切にしているといいます。「例えばオンライン上だけで大きな契約を結ぶのは怖いとか、相手の心情に配慮して足を運ぶことはあります。オンラインでは、その人の本音みたいな深いところまではなかなか聞けないこともあるので、そういう意味ではリアルの場でコミュニケーションを取ることも大事にしています。テダソチマのメンバーと一緒に食事をする時間も、リモートでは替えのきかない大切なひと時ですね」。

東京にはないチャンスがある

地方と関わる魅力を伺うと「東京にいる時よりも、多くの人と交流できるようになりました」と木下さん。東京には専門家が多く集まっているため分業化が進んでいますが、地方では、一人でいくつもの関連業務をこなすゼネラリストとしての役割を求められることが多いです。
木下さんは「何かしらのプロジェクトを実施する場合、トータルで関わることができます。だから、仕事の幅も広がるし、いろいろな人と関わることができる。東京にいるだけでは得られないチャンスを、たくさんもらえていると感じています」と語ります。

今後も東京と須賀川、二地域での居住を続けていくつもりだという木下さん。この場所でやりたいこと、挑戦したいことがまだまだあるのだと語ります。

そのひとつが「みんなのイバショソダテプロジェクト」。これは、須賀川市が所有していた旧母子生活支援施設をテダソチマが引き受け、地域内外の人が利用できるコミュニティー拠点を創ることを目的としたプロジェクトで、今後も須賀川ならではの事業を展開していく予定です。

その地でやるべきことやる。それが仕事の創り方

地方で暮らすことを考えた時、誰もが気になるのが新しい仕事が見つかるかということ。
もともと福島と関わりのなかった木下さんは、どのように仕事を創り、活動の幅を広げていったのでしょうか。

「その地域にしかできないこと、今やらないといけないことをやる。この考え方を昔からすごく大事にしています。例えば東京で成功したやり方をそのまま須賀川で実践しても、同じように成功するとは限りませんよね。『自分のやりたいことをやる』だけではなく『その地域の可能性を最大限に広げる』という意識が大切だと思います」

左 テダソチマの大木和彦社長

その意識を持ったうえで、地域に積極的に飛び込んでいくことが重要だと木下さん。その話を受けて、テダソチマの大木和彦社長はこう続けます。「地方で自分が何をしたいか、よく分からない人もいると思うんですよ。そういう人には、まずは須賀川に遊びにおいで、と声をかけています」
1泊してまちの人と一緒にご飯を食べ、頭の中にあるイメージをとにかく話す。そうするうちに、ほとんどの人は気持ちの整理ができていくのだとか。「須賀川を気に入ったら何回も来てもらって、知らないうちに馴染んでもらうような関係性で良い。お互い無理しても疲れてしまうので、まずはゆるくつながっていくのが大切だと思うんです」

固定概念に縛られず、やりたい気持ちを大切に

最後に木下さんに、二地域居住に興味を持つ人に向けてのメッセージをいただきました。

「やってみたいという気持ちがあるなら、ぜひやってほしいと思います。できない理由を考えるより、やってみる方がよい。壁にぶつかったらその時また解決策を考えたらいい。絶対に良い経験になるし、迷ったまま何もアクションを起こさないよりも、ずっと多くの学びが得られると思います」

取材を終えて

地方移住に関心があっても、仕事があるから東京から離れられない、家族がいるから環境を変えられないなど、簡単には実現できない事情があるもの。でも、「二地域居住」のような新しいライフスタイルを柔軟に取り入れ、“地方で暮らす=移住”という固定概念から自由になれれば、週末だけ地方で過ごす、故郷に帰るなど、地域との関わり方の選択肢と可能性は広がります。

「地方とつながりたい!」という思いがある方は、その気持ちを大切に、一歩を踏み出してみてください。

この記事に関するお問い合わせ先

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