南会津の地で受け継ぐ、正直な豆腐づくり。

南会津の地で受け継ぐ、正直な豆腐づくり。

南会津の地で受け継ぐ、正直な豆腐づくり。

福島県 南会津郡 南会津町 在住 江井 翼(えねい つばさ)さん

  • 南会津
  • レジャー
  • 起業

profile

1983年、福島県いわき市生まれ。都内の企業でシステムエンジニアとして勤務したのち、2015年より南会津町で地域おこし協力隊として3年間活動。その後、同地で豆腐店を継業・起業。無添加・釜炊きによる、こだわりの豆腐づくりを実践している。

南会津の地で受け継ぐ、正直な豆腐づくり。
前沢曲家資料館内部でインタービューにこたえる青緑色の服を着た江井さんの写真

江井翼さん。豆腐店を営むかたわら、前沢曲家資料館で案内役をつとめる

地域おこし協力隊から豆腐店起業へ

茅葺屋根やL字型の構造が特徴的な曲家(まがりや)が軒を連ね、懐かしい日本の原風景を今に伝える南会津町舘岩地区の「前沢曲家集落」。その中にある資料館で週に一度、案内役をつとめる江井翼さん。他にも地域の仕事を数多く担当していますが、メインの仕事は、豆腐づくりです。
廃業を考えていた豆腐屋さんの設備を譲り受け、「えねいとうふ店」としてオープン。南会津の水で仕込み、今では珍しい釜炊きによる、こだわりの豆腐づくりを続けています。

もともとは都内のIT企業でシステムエンジニアとして勤務していた江井さん。東京での生活は、安定した仕事で給料も悪くなく、特に不満はなかったと言いますが、「この先何十年も続けていくとなると、違うのかなと思ったんです」と振り返ります。
そんな中、茨城県つくば市にて週末農業に参加することに。貸し農園を借りて作物を作っていたら、すっかり農業に魅せられてしまったと言います。「農業というのは、生活に直結している人間らしい営みだと感じ、そこに惹かれるものがありました。いずれは農業の道に進むのもいいなと思い始めたんです」。
その後、仕事を辞め、千葉県にある農業生産法人で約3年間農業を学び、地域おこし協力隊に応募したことをきっかけに、2015年に南会津町に移住。たのせ地区を拠点に農産加工や6次産業化に取り組み始め、地域を見てまわる中で、次第に豆腐づくりに興味を持つように。
「大豆は生産から加工、販売までできます。使用する水の質によっても品質が変わってくるし、奥深く、面白いなと。農産物加工品としての魅力にどんどん惹かれていきました」。

やがて協力隊の任期満了が迫り、これからどう暮らしていくかを考えていた際に、もともとやりたかった農業に加え、豆腐製造をやっていけたら…との想いを強くするようになった江井さん。そんな折、隣接する川衣(かわぎぬ)地区の豆腐店が廃業するとの話が耳に入ります。
「とても残念だったので、挨拶に伺うと、『よかったらこれを使ってくれないか』と、豆腐製造機器を譲り受けることになったんです」。

四方を山に囲まれており、和風の建物が十数件立ち並ぶ前沢曲家集落の写真

南会津町「前沢曲家集落」

世界一周旅行が移住のきっかけに

江井さんが南会津町へ移住するきっかけのひとつとなったのが、「夢だった」と話す世界一周旅行でした。
「都内のIT企業を退職後、約1年かけて世界中を回りました。都市部を中心に回ったのですが、あまり面白くなくて。グローバル化の影響もあって、どこの国の都市でも似たような感じだと思ってしまったんです」。
そんな中、江井さんが興味を抱いたのが、各国の片田舎の風景でした。「どの国でも、田舎に行けば行くほど、地域の文化や伝統が色濃く残っている場所があって、そこにはその地域の特色が必ずあるということに気が付きました。田舎をめぐると、その地域らしさが垣間見られることが非常に面白かったんですね。日本に戻ったら、地方でやっていきたいなと思うようになりました」。
帰国後、いくつかの候補地を回った江井さん。最終的に南会津を選んだのも、前沢集落の茅葺屋根の家や、珍しい曲家があったりと、文化的な視点から魅力を感じたことがきっかけでした。

四季によって全く異なる表情を見せる南会津の自然環境も、江井さんが移住を決断する後押しになりました。
「ふらっと出かけただけでも息を呑むような景色に出会えたり、とにかく素晴らしい自然環境は、子育てにも最適だなと思いました。私自身、いわゆるニュータウンで生まれ育ったので、自然にはあまり馴染みがなかったんです。できるだけ子どもたちには、小さい頃から大自然に触れ合ってほしいという思いがありました」。
協力隊時代に、町で森林関係の仕事に携わっている方のところへ足を運ぶ機会があり、そこでより地域のことを深く学べたことも、定住への想いを後押ししてくれたと言います。

お盆の上に豆腐や素揚げ、厚揚げなどのえねいとうふ店の商品を並べた写真

 豆腐だけでなく素揚げや厚揚げなども製造。毎日のように地域を回り、配達している 

自分の子に食べさせたい、そんな「正直なものづくり」を

江井さんの当面の目標は、豆腐店をしっかりと軌道に乗せていくこと。それには、製品の価値を高めていくことが欠かせないと言います。「山奥なので、店頭販売だけでは正直厳しいです。自分で積極的に販路拡大をしていかないといけないという大変さはあります」。
しかし、決して不可能なことではないとも話してくれました。
「今では蒸気ボイラーを使う製造法が主流ですが、昔からの手法で大事に炊くことで美味しい豆腐ができます。手間はかかりますが、価値あるこだわりの豆腐がつくれると思っています」。そうした加工の部分でストーリー性や価値を付加できるのは、豊かな自然環境に恵まれた南会津ならではの強みなのです。
そして何よりも、江井さんが大切にする想いがあります。「一番は、『自分の子どもたちに食べさせたいか』ということです。とにかく正直な豆腐づくり、ものづくりをしていきたいですね」。

取材を終えて

「福島県の南西部に位置する南会津町。会津地方の中心地・会津若松市から45kmに位置し、古くから交通の要衝として栄えてきました。
今回お邪魔した舘岩地区には高山植物の宝庫である田代山湿原が広がり、シーズンには多くの登山客でにぎわいます。江井さんがこの地域に定住するきっかけとなった地域おこし協力隊のほか、空き家バンク、移住支援金制度など行政の移住支援体制も充実しています。

(掲載:2019年10月)

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