“好き”を仕事に。
日本酒づくりに挑戦するため夫婦で移住

愛知県出身の伊藤さんが古殿町に移住したきっかけや日本酒づくりに携わるようになった経緯を伺いました。

・岡山県→古殿町
・メーカー勤務
→豊国酒造(日本酒づくり)&「清酒アカデミー」で研修中

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  • 里山暮らし

INDEX

伊藤啓岐(いとう ひろき)さんプロフィール

1986年愛知県生まれ。メーカー勤務中、コロナ禍をきっかけに生き方を見直し「好きな日本酒を自分の手で造りたい」と転職を決意。好きな銘柄の一つである「一歩己(いぶき」を手がける豊国(とよくに)酒造に惹かれ、2023年3月、妻・桂さんと共に岡山県から古殿町へ移住。現在は酒造りに携わりながら、福島県主催の「清酒アカデミー」で日本酒について学びを深める。妻と長男・涼真くんの3人暮らし。

伊藤啓岐さん

Q. 古殿町へ移住したきっかけを教えてください。

一番の理由は「日本酒をつくりたい」という思いでした。20代前半から日本酒が好きで飲み比べを重ねるうちに、その奥深さに強く惹かれていきました。

一方で、当時はメーカー勤務として全国を転勤する生活を送っていました。仕事に不満はありませんでしたが、コロナ禍をきっかけに生き方を見つめ直し、「好きなことを仕事にしたい」「後悔のない人生を歩みたい」と思ったのです。そのとき、真っ先に浮かんだのが、日本酒造りでした。

それからは、酒蔵で働く道を探し始めました。求人を見つけていくつか面接を受けましたが、一番心を動かされたのが、古殿町の「豊国酒造」でした。夫婦で福島まで出向き、面接に伺った際には、社長自ら町を案内してくださり、地域や蔵の雰囲気に触れることができました。その温かい対応や真摯な姿勢に惹かれ、「ここで働きたい」という思いが強くなりました。

実は、岐阜県の酒蔵にも面接に行きました。実家に近いという安心感はありましたが、働きやすい環境があること、好きな銘柄の一つである「一歩己」を造っていることが古殿町への移住の決め手となりました。最後は妻の「やりたいなら挑戦してみたら」という言葉が後押しになり、2023年3月、岡山県から古殿町へ妻と共に移住しました。

Q.奥様は移住に不安はありませんでしたか?また、生活の基盤はどのように整えられましたか?

正直に言うと、私の実家がある広島からは遠く、気軽に帰れない距離感に少し不安がありました。ただ、もともと転勤生活をしていたので「夫がいれば、どこで暮らしても大丈夫」という感覚があり、移住そのものに大きな抵抗はありませんでした。

初めて町を訪れたときは、率直に「思ったより田舎だな」と感じました。ただ、ネガティブに捉えたわけではありません。古殿町への移住前に暮らしていた岡山県では、街の中心部に住んでいたこともあり、便利な一方で人や車が多く、私には合わないと感じていました。古殿町では「ゆったり落ち着いて暮らせそう」と前向きに感じました。

仕事や住まいについては、夫の面接で町を訪れた際に町役場へ相談に行きました。以前から児童クラブで働いていたので、移住後も同じ仕事を希望していましたが、役場から求人を紹介していただいて、引っ越してすぐに働き始めることができました。住まいも民間のアパートが少なく不安でしたが、町営住宅を紹介していただいたおかげで、安心して暮らせる環境が整いました。

Q.酒蔵でのお仕事について教えてください。

仕込みから出荷まで一連の工程に関わらせていただいています。豊国酒造では、工程ごとに役割を分けるのではなく、職人が力を合わせて作業を進めています。仕込みは酒米を手で洗うことから始まります。作業は想像以上に力仕事が多く、初日は午前中の時点で一日分の疲れを感じたほどでした。それでも、好きなことを仕事にできる喜びが大きく、充実感があります。


また、現在は、福島県酒造組合が運営する「清酒アカデミー」にも参加中です。蔵での実務と並行して酒造りの理論や知識を学ぶ機会をいただいています。

Q.「清酒アカデミー」について詳しく教えてください。

県内の酒蔵勤務者を対象にした3年制の実践的な訓練機関です。3年間通して座学があり、経験や勘に頼りがちだった酒造りを、科学的なデータに基づいて体系的に学びます。講師はベテラン杜氏や専門家で、醸造理論や微生物の働き、品質管理など幅広い知識を習得できます。また、利き酒の実習もあり、酒質を見極める力を養って座学で学んだ知識を感覚として落とし込むことができます。

3年目には仕込みの実習があり、アカデミー生が自ら酒質設計を行い、実際の作業は講師陣のサポートを受けながら進めます。現場さながらの環境で酒造りの一連の流れを学ぶことができる貴重な機会です。

私は2023年4月に入校し、今年で3年目になりました。勤務の一環として就業時間内に通わせてもらえているおかげで、安心して学びに集中できています。同期は7名で、他の蔵で働く方々と交流できるのも大きな魅力です。意見交換を通じて視野が広がり、とても貴重な学びになっています。

Q. 今後の目標や、酒造りにおいて挑戦したいことはありますか?

まだ酒蔵に入って間もないので、まずは一つひとつの工程を確実に覚えて、蔵の戦力になれるようになることが目標です。酒造りは体力も知識も必要で、経験の積み重ねが欠かせません。日々の作業からしっかり学び、将来的には、自分の手で思い描く酒を仕込めるようになりたいです。

ふくしまぐらしのお気に入りベスト3は?

1.人が優しい

福島に来てまず驚いたのは、人のあたたかさです。コンビニやスーパーの店員さんが親切に声をかけてくれたり、職場や地域の方からお裾分けをいただいたり。暮らしのなかで、人の優しさに触れる場面が数えきれないほどあります。

日本酒が美味しい

福島県は、質の良い米と水、気候風土に恵まれていて、県内各地に美味しい酒蔵があります。振り返ると、これまでも一番多く口にしていたのは福島のお酒でした。それだけレベルが高く、どのお酒を飲んでも美味しいと感じます。

車のマナーが良い

車の運転マナーがとても良いのも暮らしやすさのひとつです。「どうぞ」と入れてくれたら「ありがとう」と返すように、みんなが気持ちよく運転できる雰囲気があります。安心して運転できる環境は日常生活の大きな安心感につながっています。

福島で暮らしてみたいなという方へ

私は移住を強く意識したわけではなく、「日本酒を造りたい」という気持ちが先にあって、その行き先がたまたま福島でした。福島は、全国新酒鑑評会で9回連続日本一を達成するなど、日本酒づくりに恵まれた環境があります。酒造りを志す人にとっても、多くを学び、挑戦できる場になるのではないでしょうか。移住を考えるときには、「やりたいこと」「大切にしたい軸」があると、その後の暮らしも前向きに充実したものになるはずです。

おすすめの近隣スポットは?

豊国酒造の敷地内にある、蔵を改装した交流施設「kuranoba」です。月に2回、スタッフの母でもある調理師さんが腕をふるってくださる「社員食堂」が開かれていて、従業員が集う場になっています。さらに地域にも開かれた場で、陶芸教室やリース作りなどのワークショップや、ハロウィンイベントなど季節ごとの催しも行われています。世代を問わず人々が集い、交流を楽しめるので、私たち家族もよく足を運んでいます。


kuranoba

福島県石川郡古殿町竹貫114 豊国酒造敷地内

https://www.instagram.com/_kuranoba/

編集後記

日本酒が好きという思いを原動力に、転職と移住を決断した伊藤さん。妻・桂さんとともに地域に溶け込み、新しい環境を楽しんでいる姿が印象的でした。これからも「ふくしまぐらし」では、各地で暮らす移住者の声をお届けしていきます。どうぞお楽しみに!

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